なぜHondaは、新規事業を“社内に閉じない”のか。IGNITIONに学ぶ、個人の熱量を事業に変える制度設計

本田技研工業株式会社(以下、Honda)が展開するIGNITIONは、社員個人の熱量を起点に、新事業の創出を目指す従業員公募型プログラムです。
その特徴の一つが、「Hondaの既存事業以外」「Hondaのアセットを利用しない」という公募条件。IGNITIONでは、Hondaの中で事業化を進めるだけでなく、社外で育てる方が適していると判断された場合には、提案者が休職制度を活用して起業する道も用意されています。起業後は、外部投資家とともに事業の成長を目指します。
2017年にR&D部門である株式会社本田技術研究所で始まったIGNITIONは、2021年に対象をHonda全社へと拡大。その後、社内向け研修IGNITION Studioや、社外の挑戦者と共創するIGNITION CHALLENGEへと取り組みを広げてきました。
なぜ、Hondaの既存事業やアセットに縛られないのか。起案者に対して、事務局はどこまで伴走するのか。事業化や起業の判断では、どういった点が重視されているのか。
新規事業Talksは、社内ビジコンの運営を担う事務局を表彰する「ビジコンAWARDS 2026」のパートナーとして、最終ノミネート企業へのインタビューを実施しています。本記事では、その一社であるHondaのIGNITIONについて、制度設計の背景から伴走支援の内容、事業化の判断、社内外への展開まで、運営の実態を程塚梨乃氏と松澤拓未氏に伺いました。
【インタビューダイジェスト】
【プロフィール】

本田技研工業株式会社
新事業開発部 イグニッションドメイン ドメインリード
程塚 梨乃 氏
2007年本田技研工業株式会社入社。
法務・人事・経営企画部門を経て、2021年より新事業創出プログラム「IGNITION」運営事務局に参画。
IGNITIONの全社展開、新事業の事業開発支援、スタートアップ投資業務を担当する。
2023年には、IGNITIONで培った新事業創出のノウハウを社内へ展開する「IGNITION Studio」を立ち上げ、人材育成や組織能力向上を推進している。

本田技研工業株式会社
新事業開発部 イグニッションドメイン グループリーダー
松澤 拓未 氏
2008年本田技研工業株式会社入社。
生産技術の開発や四輪生産工場の量産支援業務に長年従事した後、2023年より新事業創出プログラム「IGNITION」運営事務局に参画。
2023年に、社外向けプログラム「IGNITION CHALLENGE」の立ち上げを担当した。
社内外の起業家の事業開発支援、「IGNITION CHALLENGE」の企画推進を行っている。
第1章|研究所から始まり、全社へ。Hondaの新事業創出プログラムIGNITIONとは
――Hondaでは、さまざまな新規事業創出の取り組みがあります。その中で、IGNITIONはどのような位置づけなのでしょうか。
程塚 氏:Hondaの新規事業には、社内の研究開発テーマをもとに事業化を目指す取り組みがあります。それに対し、IGNITIONは、従業員個人の熱量を起点に事業をつくる、従業員公募型の新事業創出プログラムです。起業家マインドを持つ従業員が、自らの想いを事業に変え、社会に還元していくことを目指しています。
また、事業化の出口も一つではありません。Hondaの中で進めるほうが早く、より価値を最大化できる事業は社内で進めます。一方、社外で育てるほうが適している事業であれば、スタートアップとしてカーブアウトする道もあります。

――IGNITIONは2017年に研究所で始まったそうですね。
程塚 氏: Hondaは従業員一人ひとりの夢や志を尊重し、自由な発想と挑戦を奨励する文化があります。研究所と製造・販売を担う会社が別法人になっているため、研究所で生まれた技術やアイデアを社会実装するまでに一つ法人をまたぐというハードルがありました。
研究所には「ミニ本田宗一郎」ではないですが、いろいろなアイデアや技術を磨いている研究者がいます。そうした人たちの技術を、より早く社会実装できる形をつくりたいという考えから、2017年にIGNITIONが始まりました。
その後、よりリーンに事業を立ち上げる方法を検討した結果、2020年にスタートアップとして社外に出るルートを追加した形です。
また、研究所以外にもアイデア・夢を持つ従業員がいることから、同じく2021年に対象をHonda全社へと広げました。
