なぜHondaは、新規事業を“社内に閉じない”のか。IGNITIONに学ぶ、個人の熱量を事業に変える制度設計

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第2章|既存事業の外で、Hondaのアセットに頼らず事業をつくる理由

――公募条件には「Hondaの既存事業以外」「Hondaのアセットを利用しない」とあります。なぜ、この条件を設けているのでしょうか。

松澤 氏:まず「Hondaの既存事業以外」としているのは、Hondaの既存事業と競合する事業を社外で立ち上げると、Hondaが自ら競合を生み出すことになり、利益相反の懸念が生じる可能性があるためです。

既存事業の領域であればHonda社内に事業化に必要なアセットがあるため、社内で取り組む方が合理的です。そうではなく、Hondaの既存事業の枠組みでは取り組みにくくても、個人の想いとしてやりたいテーマに挑戦するのがIGNITIONです。

アセットを活用しない理由は、大きく二つあります。
一つは、カーブアウト後もHondaに依存せず、事業を続けられるようにするためです。Hondaのアセットを前提に事業をつくってしまうと、外に出た後に事業環境や協業関係の変化によってそのアセットを使えなくなった時、事業そのものが成り立たなくなってしまう可能性があります。

もう一つは、最初からHondaのアセット活用を前提にすると、事業にとって本当に最適な選択肢を考えにくくなるためです。例えば「Hondaにはディーラーがあるから、そこで売ろう」と考えてしまうと、顧客にとって本当に最適な販売チャネルかどうかを十分に検証しないまま選んでしまうかもしれません。

まずはHondaのアセットを前提にせず、独立した事業として顧客への価値提供に何が最適なのかを考える。そのために、アセットを使うという考えをいったん外しています。

Hondaのアセットを前提にせず、一つの事業として何が最適なのかを考えることが重要だと話す松澤氏
Hondaのアセットを前提にせず、一つの事業として何が最適なのかを考えることが重要だと話す松澤氏

――社内で育てるだけでなく、カーブアウトという選択肢を設けているのはなぜでしょうか。

松澤 氏:大きな理由の一つは、スピードです。Hondaの看板を背負って事業を進めるのであれば、品質や安全性、社内手続きなどについてHondaとして求められる極めて高い基準を満たす必要があります。一方、スタートアップでは、小さく試し、顧客の反応や検証結果から学びながら改善を重ねることができます。Honda社内の仕組みでは実行しにくい進め方でも、外に出ることでスピード感を持って検証できるようになります。

もう一つは、外部の力を取り入れやすくなることです。VCから出資を受けることで、その領域に知見を持つ人材や企業とつながることができます。必要に応じて事業パートナーや専門家の紹介を受けるなど、外部の知見やネットワークを活用しながら事業を育てられるようになることを狙っています。

――カーブアウト後、Hondaはどのような立場で事業に関わるのでしょうか。

程塚 氏:カーブアウトする場合、Hondaの出資比率は20%未満にしています。外部のスタートアップ・エコシステムの中で育てていくため、他の投資家にも入っていただきやすい形にしています。

松澤 氏:Hondaが株式の過半数を持ってしまうと、Hondaの事業戦略が変わった時に、事業そのものが続けられなくなる可能性があります。また、外部の投資家も出資しにくくなります。

Hondaとして支援はしますが、スタートアップが独立して意思決定できるようにすることも、出資比率を20%未満にしている理由です。

――カーブアウトして起業する場合、Hondaとの雇用関係はどうなるのでしょうか。

松澤 氏:起業する場合は、IGNITION専用の休職制度を利用します。休職中はHondaから給与や賞与は支給されず、起業後の給与も自分たちで賄っていきます。その意味では、実態としては退職に近い形です。

ただ、スタートアップにはもちろん失敗する可能性もあります。会社を清算することになった場合には、Hondaへ戻ることができます。

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