なぜHondaは、新規事業を“社内に閉じない”のか。IGNITIONに学ぶ、個人の熱量を事業に変える制度設計
第6章|Honda社外の挑戦者と事業をつくる。IGNITION CHALLENGEの現在地
――IGNITIONで培った事業開発のノウハウは、2023年から社外向けのIGNITION CHALLENGEにも広げています。どのような背景から始まったのでしょうか。
松澤 氏:もともと社内のIGNITIONでは、Honda従業員の技術やアイデアを活用し、社会課題の解決や新たな顧客価値の創造を目指してきました。
ただ、そうした挑戦は、必ずしもHondaの従業員を起点にする必要はないのではないか、という議論がありました。社外にも同じような課題に挑戦している方がいます。そこで、IGNITIONで培ってきた事業開発のノウハウやケイパビリティを社外の挑戦者とも掛け合わせ、一緒に事業をつくれないかと考えたのがIGNITION CHALLENGEです。
Hondaの外で、社会課題の解決や新たな顧客価値の創造に挑戦している方に応募いただき、Hondaのメンバーが伴走しながら、事業の0→1をつくっていくプログラムです。
――これまで2回実施する中で、公募対象も変えているそうですね。
松澤 氏:第1回は、起業を目指す個人と、創業3年以内のスタートアップを対象にしました。第2回は、対象を起業を目指す方に絞っています。次回をどうするかはまだ検討中で、どのような方と組むのがよいか、今も試行錯誤しているところです。
また、特定の属性に限定しているわけではありません。「これを社会に届けたい」という思いを持っている方であれば、対象になり得ると考えています。ただ、一次審査を通過した方を見ると、結果的には技術起点の方が多いです。IGNITION CHALLENGEではエンジニアも支援に入るため、技術を持つ方に対して支援の価値を発揮しやすい面もあります。
――これまで、どのようなテーマが採択されてきたのでしょうか。
松澤 氏:これまでの公募では、モビリティ、ロボティクス、カーボンニュートラル、生産・製造技術の4領域を対象としてきました。
第1回で採択した案件には、「子どもたちが自然に対して愛着を持てるようなソリューション」を考えた高専の学生のほか、立ち上がって移動できる車椅子に取り組むスタートアップ、リハビリのソリューションに取り組む大学教授など、さまざまなテーマがありました。
採択後はHondaのメンバーが伴走し、最後にデモデイで、その期間の成果をピッチしてもらいます。
――デモデイ後は、Hondaとの協業や出資につながるのでしょうか。
松澤 氏:想定としては、さまざまなパターンを考えています。ただ、これまでの2回では、まだ「Hondaと一緒に事業をやる」という案件は生み出せていません。
一方で、プログラム終了後もHondaの子会社が持つテーマパークでPoCを約1年間続けた例があります。また、プログラム期間中にスタートアップとして会社を立ち上げ、終了後に資金調達に成功した方とは、定期的に情報交換を続けています。
――今後、IGNITION CHALLENGEをどのように進化させたいと考えていますか。
松澤 氏:一定の価値提供はできるようになってきたと思う一方で、もっとインパクトを出したいと考えています。プログラムが終わって「そこでさようなら」では、なかなか大きなインパクトを残せません。終了後もHondaと一緒に事業をつくっていける形にしたいと思っています。
そのために、どのような方を公募対象にするのか、出口をどう設計するのか、その間の支援をどうするのか。今まさに社内で議論しています。

――通常のIGNITIONについては、今後どのような点を強化していきたいのでしょうか。
程塚 氏:新規事業は「多産多死」が原理原則だと思っています。その意味では、まだまだ「たくさん生まれた」と言える状態ではありません。
より世界を大きく変えていくためには、たくさんの事業が生まれていく状態をつくっていかなければなりません。そこは力を入れていきたいと思っています。世界を変えるのはIGNITIONだけではありません。Hondaとして進める新規事業も含めて、より多産多死を加速させていきたいです。
