保険会社が、なぜクルマの試乗サービスに挑むのか。東京海上日動発Carjanyに学ぶ、経営課題からの新規事業づくり
第6章 | 試乗は入口。ブランドを横断する立場から、クルマ選びを変える
──現在の試乗サービスの先に、どのような事業を構想しているのでしょうか。
渡邊:私たちが目指しているのは、自動車の売り方や買い方そのものを変えていくことです。試乗は、その実現に向けて最初に取り組んだ領域です。
クルマを選び、購入する過程には、まださまざまな課題があります。例えば、購入時の不満を調査すると、価格の分かりにくさが挙がりました。同じクルマでも、購入する時期や交渉によって値引き額が変わり、自分が納得できる条件なのか判断しにくいのです。
こうした課題にも、取り組める余地があると考えています。ただ、業界の仕組みや取引関係にも関わるため、すぐに着手できるとは限りません。私たちの立場で価値を提供できる領域を見極めながら、サービスを広げていきたいと思っています。
──複数ブランドを扱うことで、どのような可能性が生まれていますか。
渡邊:お客様が複数のクルマを乗り比べることで、クルマ同士の相対的な評価が蓄積されています。どこに違いを感じ、何を重視して選んだのか。実際に比較した方の声は、これからクルマを選ぶ方の意思決定に役立つ情報になります。
その情報は、ディーラーの提案にも生かせます。自社のブランドについて詳しくても、他社のクルマとの違いまで十分に説明するのは難しい場合があります。そこで、お客様が乗り比べて感じた違いを共有できれば、比較検討している方に、より納得感のある提案ができるはずです。
ブランドを横断して、お客様に近いところで接点を持っている。その立場から得られる情報は、今後の事業を考えるうえでも大切な強みだと思います。

──事業を広げるうえで、守り続けたい立ち位置はありますか。
渡邊:ユーザーとディーラーの双方が納得できるサービスをつくることです。どちらか一方に偏ってしまうと、私たちの事業は成り立ちません。
お客様が自分に合うクルマを選べて、ディーラーも効率よく、納得いただける提案ができる。両者だけでは解決しにくい課題に、第三者として関わることに意味があると考えています。
複数ブランドを扱う立場と、東京海上日動との関係で培ってきた信用を生かせば、試乗以外にも提供できる価値はあります。クルマ選びをより楽しく、スマートにするために、購入と販売のプロセス全体を見ながら、新しいサービスをつくっていきたいですね。
──最後に、大企業で新規事業に取り組む方へ、メッセージをお願いします。
渡邊:まず考えてほしいのは、なぜその事業を自社でやるのかということです。事業単体の魅力に加えて、自社のどの経営課題を解決し、既存事業も含めてどのような価値を生むのか。そのつながりを描くことが大切だと思います。
私たちの場合、出発点には損害保険業の顧客接点の課題がありました。その解決に向けて、自動車販売業界の課題に取り組んでいます。新規事業を経営課題の解決手段として捉えることで、経営陣に伝えるべきことも変わってきます。
もう一つは、自分が必要だと信じるものを、粘り強く形にしていくことです。Carjanyも、最初から周囲に成功を信じてもらえたわけではありません。それでも、自分なら使いたいと思えましたし、この事業で業界を変えられる可能性を感じていました。
壁にぶつかったときは、考えて、試してみる。五つ試してうまくいかなければ、次の方法を考える。少し手応えがあれば、その方向でさらに試す。そうして行動を重ねることで、道が開けてきました。
振り返ったときに、あのとき挑戦しておけばよかったと後悔したくない。自分が実現したいことに対して、考え、行動し続ける。その思いを大切にしてほしいですね。
