保険会社が、なぜクルマの試乗サービスに挑むのか。東京海上日動発Carjanyに学ぶ、経営課題からの新規事業づくり
第5章 | 40拠点への拡大を支えた提携と、広がるほど難しくなる組織づくり
──拠点拡大を支えたイオンモールとの連携は、どのように始まったのでしょうか。
渡邊:実証実験を始める際に、子育て世帯にサービスを届けやすい場所として、ショッピングモールがよいと考えました。東京海上日動との取引関係を通じて、イオンモールに相談できたことがきっかけです。
ただ、関係があるだけで協力していただけるわけではありません。イオンモールにとってのメリットとして、大きく二つのことをお伝えしました。
一つは、使い切れていない駐車場の活用です。私たちはクルマの受け渡しができればよいので、人通りの多い場所を借りる必要はありません。普段は埋まりにくい場所をお借りし、賃料をお支払いできます。
もう一つは、来店機会を増やせることです。お客様はクルマを借りるときと返すとき、少なくとも2回は施設を訪れます。クルマ選びという新たな来店のきっかけも提供できると考えました。
実証実験を進めると、ほかの施設からも導入したいという声をいただくようになりました。事業を広げる段階では、全国に拠点網を持つイオンモールとの連携が重要になると考え、本社にも働きかけ、資本業務提携につなげていきました。

──拠点が増えるなかで、どのような難しさが出てきましたか。
渡邊:私たちの事業は、拠点を増やすたびに現場で動く人が必要になります。お客様に対応するスタッフも、ディーラーからクルマをお借りする営業のメンバーも欠かせません。
実証実験では少人数でサービスを磨けましたが、事業を広げるには、採用したメンバーが同じようにサービスを提供できる組織をつくらなければなりません。採用、教育、業務の進め方を整えることが、大きな課題になっています。
採用では、ディーラーでの勤務経験があり、自動車販売のあり方を変えたいという思いを持つ人を重視しています。現場の仕事や課題を知ったうえで、私たちの目指す方向に共感してくれる。そのようなメンバーと事業をつくっています。
──複数の拠点を運営するために、どのような工夫をしているのでしょうか。
渡邊:スタッフを各拠点に固定で配置せず、エリア全体で運営しています。予約に合わせてクルマを移動させ、対応できる人数に応じて予約枠も調整する。そうすることで、人とクルマを効率よく動かしています。
ただ、運営の仕組みを整えることに加えて、組織として考え方を共有し続ける難しさもあります。
関東だけで展開していたときは、私がメンバーと直接顔を合わせて話すことができました。関西に広がると物理的な距離ができ、組織の階層も増えます。これまで直接伝えられていたことを、どう現場まで届けるのか。マネジメントを担う人材も必要になってきました。
事業モデルをつくる段階から、人を採用し、育て、組織としてサービスを届ける段階へと、課題が変わってきています。今はまさに、その難しさに向き合っているところです。
