勘と経験の陸上養殖を、再現可能な産業へ。収益モデルの完成前に走り出した株式会社Niterra AQUAの挑戦
第2章|高精度なセンサーだけでは、顧客の課題を解決できなかった
──陸上養殖事業は、どのようなサービスから始まったのでしょうか。
長原氏:2019年に事業検討を始めた当初は、陸上養殖向けの水質モニタリングシステムを構想していました。
日本特殊陶業には、自動車の排ガスに含まれる成分を検知する車載用センサーの技術があります。この技術を水中で活用し、養殖に影響を与えるアンモニアを測定するセンサーを開発しました。
当初は、私たちが水質センシングを担当し、養殖や販売については、それぞれ知見を持つ企業と連携する計画でした。自社で開発した高精度なセンサーを提供し、ほかの企業が養殖や販売を担うという役割分担です。
──なぜ、センサーを提供するだけでは不十分だったのでしょうか。
長原氏:事業を進めるなかで分かったのは、いくら高精度なセンサーを作っても、それだけではお客様の課題を解決できないということでした。
養殖では、エビの排せつ物や食べ残した餌などによって、アンモニアの濃度が高くなることがあります。アンモニアはエビにとって有害なので、水質の悪化に早く気づくことは重要です。
ただ、センサーができるのは、水質が悪化していることを測定して知らせるところまでです。お客様が求めているのは、アンモニアの数値を知ることではなく、エビを安定して育て、事業として成立させることです。技術的に優れたものを提供することと、お客様の課題を解決することは、必ずしも同じではないと気づきました。
──その気づきは、どのように得られたのでしょうか。
長原氏:実際に養殖をしなければ、本当の課題は分からないと考え、2020年頃から協力会社とともに自分たちでエビを育て始めました。その後、養殖ラボも設け、本格的な養殖に取り組みました。
しかし、始めた当初は水質をうまく管理できず、エビが全滅することも何度もありました。水質は測定していましたが、値が悪化したときに、どのように対処すればよいのかが分からなかったのです。
そこで、水質を測る仕組みだけでなく、水をきれいに保つろ過設備や、水質を適切な状態に戻すための運用まで含めて考える必要があると分かりました。測定と制御のどちらか一方だけでは、安定した養殖は実現できません。
──自社で開発したアンモニアセンサーを使わない判断もされたそうですね。
長原氏:現時点では、自社製アンモニアセンサーを使うことを前提にしない判断をしました。
もともとは、自社のセンサー技術をどのように活用するかという発想から始まった事業です。しかし、事業として大切なのは、自社技術を使うことではなく、お客様が安定して養殖できる状態をつくることです。
現場で必要とされているものを優先し、自分たちが開発した技術にも固執しない。その姿勢が、その後の事業の進化につながっていきました。
