第4回 「おかん」はつくれるのか ― 属人性を超える設計へ

  • URLをコピーしました!

ここまでの連載では、新規事業が止まる背景にある人や組織のズレを捉え、その間をつなぎながら挑戦を前へ進める「おかん」という存在と、その具体的な仕事を見てきた。一方で、こうした役割を聞くほど、「結局、おかんは一部の特別な人にしかできないのではないか」という疑問も浮かんでくる。

最終回となる第4回では、「おかん」を属人的な才能で終わらせず、組織の中に育み、機能として根づかせることはできるのかを考える。必要となるマインドや能力、価値観を整理するとともに、挑戦者が安心して未知へ踏み出せる「安全基地」という視点から、イノベーションを支える組織のあり方を問い直していく。


プロフィール

長峯さんプロフィール写真

株式会社COMMONS-C 代表取締役 長峯志甫

2008年、(株)アイさぽーと(現大阪ガスビジネスクリエイト(株))入社。イノベーター育成の研修プロデューサーとして、MOTスクールをはじめ、人材育成プログラムや異業種交流会の企画・コーディネートなどを担当。2022年8月、創業メンバーとして、大阪大学フォーサイト(株)を設立。経営企画として、会社の基盤づくりを行いながら、人材育成事業の立ち上げを担当。人材育成の枠にとどまらず、イノベーション創出の仕組みや人材育成のコンサルティングを行う。2026年7月、(株)COMMONS-Cを設立し、代表取締役に就任。(株)ママクリエイターラボの取締役の就任をきっかけに、スタートアップ支援にも力を入れている。 


前回、新規事業の現場で「おかん」が担っている仕事を、「カオスを整理する」「立ち止まっている理由を聞く」「人をつなぐ」「場を維持する」「背中を押す」という5つの役割に分けて整理した。

あわせて読みたい
第3回 「現場で起きている“おかんの仕事”を分解する」 新規事業における「おかん」は、単に相談に乗ったり、場を和ませたりする存在ではない。情報や感情が入り混じるカオスを整理し、立ち止まっている人の背景に耳を傾け、...

こうして役割を言葉にしてみると、次に浮かんでくるのが、「でも、それって結局、特別な人にしかできないのではないか?」という問いである。

確かに、おかん的な動きが自然にできる人はいる。しかし私は、「おかん」は才能だけで成立しているわけではないと思っている。おかんが特別な人ではなく、属人性を超えるために、2つのポイントがある。

1つ目は、おかんマインドを持ち、必要な能力をトレーニングすることである。

ここで、おかんマインドと必要な能力を定義したい。

“おかん”をつくる3つの要素
「マインド」「能力」「価値観」が重なることで、“おかん”としての機能が発揮される。

おかんのマインドは、
常に元気がある:新規事業では熱量が落ちやすい。そのため、「場のエネルギー」を持っている人が必要である。

まさにおかんはエネルギーの供給源である。 
こびない:誰かに迎合するのではなく、「何が挑戦にとって必要か」で動く。常に本質を基準にしている。
エフェクチュアル:完璧を待たず、今ある人、資源、関係性から始める。

そして、おかんに必要な能力は、
関係性構築力:傾聴力、共感力、信頼構築力、越境力、翻訳力、
推進力:背中を押す力、編集力、巻き込み力、チームアップ力、状況判断力
構造化力:カオス耐性、俯瞰力、論点整理力、本質把握力、意味づけ力
である。 

おかんがおかんであるためには、マインドと能力とあわせて、価値観が重要である。それは、人は未完成でも可能性を持つ、挑戦は育ち、育てるもの、関係性が人を前進させることだ。この価値観に共感いただける方はぜひ、おかんとして活躍いただきたいと思う。  

2つ目は、組織がその機能を必要だと認識しているかどうかだ。

多くの企業では、新規事業に対して市場分析、仮説構築、事業計画、プレゼンテーションなど「事業をつくる力」は求められる。しかし実際には、それだけでは事業は動かない。

挑戦者が孤立する。部門間で分断が起きる。社外パートナーとの認識がズレる。そして、少しずつ熱量が失われていく。だからこそ、本来必要なのは、「関係性を維持し、前に進める機能」を組織として設計することだと思う。

ただ、今の組織では、多くの場合、おかん的な役割は評価されにくい。数字に見えない。成果として定義しにくい。

しかし実際には、その機能がなければ、挑戦そのものが成立しない。だからこそ、「人を支えること」「場を維持すること」「関係性を編み直すこと」を、組織として価値ある仕事だと認識する必要がある。

私は、新規事業に必要なのは、“天才”だけではないと思っている。

むしろ、挑戦が続く状態をつくれる組織の方が強い。そして、その土台には必ず、おかん的な機能が存在している。イノベーションは、アイデアだけでは生まれない。

人が挑戦し続けられる環境、対話できる関係性、立ち止まっても、また前に進める場。こうした土壌の上で、初めて新しい価値は育っていく。新規事業とは、未完成なものを扱い続ける営みでもある。まだ形になっていなくて、まだ価値になるか分からない。それでも、「育つかもしれない」と信じながら向き合い続ける。

多くの組織は、完成度や正しさを求める。しかし、新価値創造の現場では、“未完成なものをどう扱うか”が極めて重要になる。

私は、おかんとは、未完成な挑戦を「まだ価値になっていないもの」として切り捨てるのではなく、「育ちうるもの」として扱う存在なのだと思っている。

だから私は、イノベーションの土台は「おかん」が作るのだと思っている。

ここで、私自身が大きく影響を受けている考え方がある。それが、アメリカの心理学者メアリー・エインスワースが1982年に提唱した「セキュアベース」である。

人間の愛着行動に関する概念であり、子供は親との信頼関係によって育まれる『心の安全基地』の存在によって外の世界を探索でき、戻ってきたときには喜んで迎えられると確信することで帰還することができるというものだ。

この考え方が発展し、現在はセキュアベース・リーダーシップというリーダーシップ論の一つとなっている。フォロワーを思いやり、守られているという感覚と安心感を与えると同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクをとり、挑戦を求める意欲とエネルギーを持たせるという考え方だ。

まさに、「おかん」である。重要なのは、「安心」と「挑戦」が対立するものではない、という点だ。

むしろ、人は安心できる関係性があるからこそ、未知の世界へ向かう勇気を持てる。

安心と挑戦の循環の図
安心して戻れる関係性があるからこそ、人は挑戦し、失敗や迷いを経ても、再び前へ進むことができる。

これは、新規事業の現場でもまったく同じだと思う。

新規事業に関わる人たちは、本当にこの方向でいいのか、社内で理解されるのか、失敗したらどうなるのか、自分にできるのかなどの不安を常に抱えている。

だからこそ、挑戦者には「戻ってこられる場所」が必要になる。うまくいかなくても、一度立ち止まっても、「大丈夫、もう一回整理しよう」と言ってもらえる関係性。

私は、「おかん」とは、この“安全基地”を組織や関係性の中につくる機能なのではないかと思っている。

4回にわたり、新規事業は“おかん”が必要であることをお伝えしてきた。

この連載を通じて、「おかん」という言葉の奥にあるものを、少しでも言語化できていたなら嬉しい。そして、この記事を読んでくださり、自分はおかんかもしれないと思った方、おかんも孤独になることがある。

その時はぜひお声かけしてほしい。これから、「おかん」という存在が増えていくことで、みなさんの会社、ひいては社会が元気になっていくことを祈っている。


連載記事
新規事業は“おかん”で回る
〜大企業での挑戦を成立させる見えない力〜

あわせて読みたい
新規事業は“おかん”で回る 〜大企業での挑戦を成立させる見えない力〜 新規事業は“おかん”で回る 〜大企業での挑戦を成立させる見えない力〜 Series 新規事業は“おかん”で回る 〜大企業での挑戦を成立させる見えない力〜 大企業における新規...

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!