第3回 「現場で起きている“おかんの仕事”を分解する」

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新規事業における「おかん」は、単に相談に乗ったり、場を和ませたりする存在ではない。情報や感情が入り混じるカオスを整理し、立ち止まっている人の背景に耳を傾け、必要な人をつなぎながら、再び挑戦を前へ進める。その仕事は目立ちにくい一方で、新規事業を継続させるうえで重要な役割を担っている。

第3回では、これまで“見えない機能”として捉えてきた「おかん」が、実際の現場でどのように動いているのかを具体的に分解する。「カオスを整理する」「立ち止まっている理由を聞く」「人をつなぐ」「場を維持する」「背中を押す」という5つの仕事を通じて、新価値創造を支える「おかん」の実像をひも解いていく。


プロフィール

長峯さんプロフィール写真

株式会社COMMONS-C 代表取締役 長峯志甫

2008年、(株)アイさぽーと(現大阪ガスビジネスクリエイト(株))入社。イノベーター育成の研修プロデューサーとして、MOTスクールをはじめ、人材育成プログラムや異業種交流会の企画・コーディネートなどを担当。2022年8月、創業メンバーとして、大阪大学フォーサイト(株)を設立。経営企画として、会社の基盤づくりを行いながら、人材育成事業の立ち上げを担当。人材育成の枠にとどまらず、イノベーション創出の仕組みや人材育成のコンサルティングを行う。2026年7月、(株)COMMONS-Cを設立し、代表取締役に就任。(株)ママクリエイターラボの取締役の就任をきっかけに、スタートアップ支援にも力を入れている。 


前回、「おかん」とは、単に人を支えたり場を和ませたりする存在ではなく、関係性を編み直しながら、挑戦を再び前へ進める“推進機能”である、という話を書いた。

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では、その「おかん」は、実際の新規事業の現場で何をしているのか。今回は、日々起きている“おかんの仕事”を、具体的に分解してみたい。

「おかん」と聞くと、人によってイメージはさまざまだと思う。

世話焼き。 あめちゃん配る人。相談役。大阪弁でしゃべり倒して、大きい声でめちゃくちゃ笑う人。

もちろん、それも一部ではある。しかし、新規事業の現場で起きている“おかんの仕事”は、もっと複雑で、実は高度だ。今回は、その役割を少し分解してみたい。

おかんの5つの仕事
カオスを整理し、人の声に耳を傾け、関係性をつなぎ直しながら、挑戦を再び前へ進めていく。

まず一つ目は、「カオスの整理」である。

新規事業の現場では、常に情報があふれている。
顧客の声。 社内事情。 上司の意向。 現場の不安。 パートナー企業との調整。

しかも、それぞれが完全には一致しない。

その結果、議論が散らかる。 本来向き合うべき論点が見えなくなる。

そんな時、おかんは「今、何が起きているか」を整理する。
「論点、二つ混ざってんで」 「本当は、ここが気になってるんちゃう?」

そうやって、場に少しずつ構造を与えていく。

二つ目は、「立ち止まっている理由を聞く」ことである。

新規事業では、人はよく止まる。しかし、止まる理由は単純ではない。

スキル不足だけではない。 自信のなさ。 孤独。 社内政治。 説明責任。
いろんなものが絡み合っている。だから、「頑張れ」だけでは動けない。

おかんは、まず聞く。「何が引っかかってんの?」 「ほんまは何が怖い?」
すると、本人も整理できていなかった本音が少しずつ出てきて、そこから初めて、「じゃあ次どうする?」が見えてくる。

三つ目は、「人をつなぐ」ことである。

新規事業は、一人では成立しない。社内の協力者。外部パートナー。 顧客。 専門家。
必要な人との関係性が増えるほど、事業の可能性は広がる。

しかし現実には、「誰に相談すればいいか分からない」という場面が非常に多い。

そこでおかんは、必要な人を見立て、つなぐ。おかんの仕事は、単に人を紹介することではない。新規事業では、立場によって見えている景色が違う。

研究者は「技術的可能性」を語る。
事業側は「収益性」を気にする。
スタートアップは「スピード」を重視する。

それぞれ正しい。

だからこそ、おかんは、
「つまり、この技術が事業側にとってどう意味があるか」
「なぜスタートアップは、このスピード感を重視するのか」を翻訳していく。
立場や価値観の違いを整理し、「この人はこういう背景で言っている」と意味づけしながら、対話が成立する状態をつくっていく。

四つ目は、「場を維持する」ことである。

新規事業では、場の空気が成果に直結する。発言しづらい。 否定されそう。 失敗を言えない。眉間にしわが寄っている環境で新しいものは生まれない。そうなると、一気に挑戦が止まる。だから、おかんは場を見る。ただ、発言内容だけを聞いているわけではない。

誰が黙ったか。誰が苦笑いしたか。誰が途中から話さなくなったか。そういう“言語化されない空気”を見て、対話が成立する空気を整えていく。

最後に、おかんは「背中を押す」。

ただし、無責任に煽るわけではない。状況を整理し、不安を聞き、それでも前に進みたいと思える状態をつくる。新規事業に必要なのは、“才能ある一人”ではない。挑戦を継続できる仲間と関係性である。そして、その土台を支えているのが、おかんなのだと思う。

逆に、おかん的な機能が存在しない組織では、少しずつ対話が減っていく。
正論だけが残って、失敗を言えなくなる。 挑戦者が孤立する。

すると、新規事業はアイデアが尽きる前に、関係性から止まっていく。
だからこそ、おかんとは単なるサポート役ではない。 新価値創造を成立させるための、極めて重要な推進機能なのである。

次回は、この“おかん機能”を、組織としてどう設計できるのかを考えてみたい。

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