本気で事業をつくる場を社内にどう生み出すか。日本新薬の新規事業プログラム「KYO Color」の挑戦

日本新薬のインタビュー記事のアイキャッチ画像
  • URLをコピーしました!

新規事業プログラムを立ち上げる企業は年々増えています。しかし、その目的は企業によって大きく異なります。

社員の挑戦を促したい、新規事業人材を育成したい、イノベーション文化を醸成したい。こうした目的を掲げる企業が多い中、日本新薬株式会社(以下、日本新薬)の新規事業プログラム「KYO Color」は少し違います。

同社が最も重視しているのは、”本気で事業を生み出すこと”。

文化醸成や人材育成は、その過程で自然と生まれるものだと考えています。

だからこそ、起案者本人の覚悟を重視し、事務局が伴走し、必要に応じて異動まで視野に入れながら事業化を目指す。本気で事業を生み出すために制度そのものを設計しています。

その裏側では、制度立ち上げ前の徹底した他社研究、新規事業に関心を持つ社内コミュニティ登録者への個別アプローチ、そして半年という短期間で制度を立ち上げた泥臭い取り組みがありました。

今回は、日本新薬でKYO Colorを立ち上げた運営メンバーと、第1回グランプリを受賞し現在事業化に取り組む起案者へのインタビューを通して、本気で事業をつくる制度はどのように設計され、どのような学びを生み出しているのか、その実践知に迫ります。


高橋洋介 氏
ビジネスプロセス変革部 新規事業推進課 課長 薬科学博士

社内新規事業プログラム KYO Colorの立ち上げを主導し、制度設計から運営までを統括。社内外の関係者を巻き込みながら、新規事業創出に向けた仕組みづくりを推進している。

坂口 武 氏
ビジネスプロセス変革部 新規事業推進課 課長補佐

KYO Colorの運営メンバーとして、起案者への伴走支援や社内コミュニティの運営、制度の改善・浸透施策などを担当。挑戦する社員を支える立場から、新規事業創出を後押ししている。

長木 飛夢馬 氏
ビジネスプロセス変革部 新規事業推進課 特任課長

営業部門での経験を経て、第1回KYO Colorでグランプリを受賞。現在は新規事業推進課へ異動し、自ら起案した事業の事業化に向けた検証・開発に取り組んでいる。


目次

第1章 | 誰でも事業を提案できる会社を目指して。KYO Color立ち上げの背景

nihonshinyaku_shuzai1
社内外の実践知を取り入れながら、KYO Colorを自社らしい制度へと磨いてきた高橋氏(左)と坂口氏(右)

──まず、新規事業プログラム「KYO Color(きょうから)」を立ち上げた背景を教えてください。

高橋 氏:日本新薬は研究開発型の新薬メーカーであり、新しい価値を生み出す文化そのものは以前から根づいていました。しかし、その中心は研究開発部門でした。

一方で、営業やコーポレート部門など研究開発部門以外にも、お客様や社会課題に日々向き合う社員はたくさんいます。そうした社員の中にも、「こんなサービスがあったらいい」「こんな価値を届けられるのではないか」というアイデアを持っている人は少なくありません。

そうした社員が、自ら事業を提案し、挑戦できる場をつくりたい。そんな想いが、KYO Colorを立ち上げた一番のきっかけでした。

──会社としても、新しい挑戦を後押しするタイミングだったのでしょうか。

高橋 氏:日本新薬はこれまで、アットホームで温かい会社という企業文化を大切にしてきました。近年では、それに加え、さらなる挑戦を推進する企業風土の醸成が強く意識されるようになっています。

また近年、「高品質で特長のある製品を提供する」から「高品質で特長のある製品やサービスを提供する」へと経営方針が改定され、「モノ」を売るだけではなく、「サービス」を提供するという方針が加わりました。医薬品や機能食品を提供するだけではなく、様々な形で人々の健康や暮らしに新たな価値を届けていく。そのためには、新しい事業への挑戦が必要だという認識が社内で共有されつつありました。

そうした流れの中で新規事業推進課が立ち上がり、KYO Colorもスタートしました。

──KYO Colorは、どのような場を目指して立ち上げたのでしょうか。

坂口 氏:社長が社員によく伝えている言葉の一つに、「コンフォートゾーンを飛び出し、ラーニングゾーンへ行こう」というものがあります。

挑戦したいと思っていても、そのための場がなければ一歩は踏み出せません。

だからこそKYO Colorは、単なるアイデア募集ではなく、社員が実際に挑戦し、自ら顧客と向き合いながら事業をつくる”実践の場”として設計しました。

第2章 | 文化醸成は結果でしかない。本気で事業を生み出すKYO Colorの制度設計

──KYO Colorでは、事業創出を最優先に制度を設計したと伺いました。その考え方について教えてください。

坂口 氏:社内新規事業制度というと、人材育成や挑戦する文化づくりを目的にする企業も多いと思います。ただ、私たちが最も重視したのは、実際に事業を生み出すことでした。

もちろん、挑戦する社員が増えれば人は育ちますし、組織の文化も変わっていきます。ただ、それはあくまで結果です。

最初から文化醸成を目的にしてしまうと、アイデアを募集して終わる制度になってしまう可能性があります。私たちは、本当に事業を生み出すにはどんな制度が必要なのかという視点で設計を進めました。

──その考え方は、制度設計にも反映されているのでしょうか。

坂口 氏:大きく反映されています。

例えば、私たちはアイデアそのものだけを評価しているわけではありません。その事業を本当にやりたいと思っているのか、自ら事業を育てていく覚悟があるのか、といった点も重視しています。

事業化が決まれば、必要に応じて異動する可能性もあります。それでも挑戦したいと思えるテーマなのか。そうした本人の意思は、事業を進めるうえで非常に重要だと考えています。

審査でも、初期の段階から市場規模や収益性だけを細かく見るのではなく、誰のどんな課題を解決したいのか、起案者自身がどれだけ顧客と向き合えているのかを重視しています。

──制度そのものは、どのように設計していったのでしょうか。

高橋 氏:新規事業推進課が立ち上がってから、およそ半年で制度を立ち上げました。

もちろんゼロから考えたわけではありません。他社の新規事業制度を数多く調べ、実際に話を伺いながら、良いと感じた部分を徹底的に学びました。

そのうえで、日本新薬の組織や文化に合う形へ落とし込んでいきました。

制度を設計する中では、人事をはじめ社内のさまざまな部門とも議論を重ねました。一次審査を通過した社員が業務時間の一部を事業開発に使えるようにするなど、本業との両立をどう実現するかも重要なテーマでした。

──制度を社内へ浸透させるうえで、意識したことはありますか。

坂口 氏:制度をつくっただけでは、社員は挑戦してくれません。

そのため、新規事業に関心を持つ社員が集まる社内コミュニティを立ち上げ、登録してくれた約400名の社員に一人ひとり声をかけていきました。

全社へ一斉に情報を発信するだけでは、どうしても他人事になってしまいます。一方で、個別に声をかけることで、「少し話を聞いてみよう」「応募を検討してみよう」と前向きに考えてくれる社員もいました。

制度を整備するだけではなく、多くの部門や社員を継続的に巻き込みながら運営していくことも、制度を定着・発展させるうえで重要な役割であると感じています。

第3章 | 原体験から始まり、顧客の声でピボットする。起案者が経験したリアルな事業開発

第1回KYO Colorでグランプリを受賞し、現在は事業化に取り組む長木氏
第1回KYO Colorでグランプリを受賞し、現在は事業化に取り組む長木氏

──まず、どのような想いから事業を考え始めたのでしょうか。

長木 氏:事業を考えるきっかけになったのは、祖父の存在でした。

祖父は病気によって少しずつ身体の自由が利かなくなっていきました。それでも、自分の好きなことを続けたいという想いを持ち続けていました。その姿を間近で見てきた経験から、身体に不自由があっても、自分らしい生活を送れるサービスをつくりたいと考えるようになりました。

最初のアイデアは、その原体験をもとにしたものでした。身体が動かしづらくなっても、趣味や好きなことを楽しみ続けられるようなサービスができないか。そんな想いから事業を考え始めました。

──そこから、事業内容は大きく変わったそうですね。

長木 氏:大きなきっかけとなったのは、顧客へのインタビューです。

当初は、自分自身の経験から「きっとこれが課題だろう」と考えていました。しかし実際に当事者やご家族へ話を伺うと、自分たちが思っていた課題と、実際に困っていることにはギャップがありました。

事業開発では、自分がつくりたいものではなく、お客様が本当に求めているものを見つけることが大切だと痛感しました。

ちょうど二次審査の直前というタイミングでしたが、思い切って事業内容を見直しました。

振り返ると、一番大きな転換点だったと思います。

──ピボットすることに迷いはありませんでしたか。

長木 氏:もちろん迷いはありました。

ここまで考えてきたものを大きく変えることになりますし、審査まで残された時間もほとんどありませんでした。

それでも、お客様の声を聞いた以上、最初の案をそのまま進めることはできませんでした。

原体験は事業を始めるきっかけにはなりますが、その後は顧客の声を起点に考え続ける必要があります。その重要性を実感した出来事でした。

──事業開発を進める中で、事務局やメンターの存在はいかがでしたか。

長木 氏:非常に心強い存在でした。

事務局は制度を運営するだけではなく、顧客インタビューの調整や社内手続きなど、事業検討に集中できるようさまざまな面でサポートしてくれました。

また、外部メンターからは、新規事業の進め方だけではなく、「本当にその課題を解決する必要があるのか」「もっと本質的な課題はないのか」といった視点を何度もいただきました。

一人だけで考えていたら、おそらく今の事業案にはたどり着けなかったと思います。

──現在はどのような形で事業化を進めているのでしょうか。

長木 氏:最終審査を通過した後は、一定期間、本業と並行しながら事業開発を進めてきました。現在は新規事業推進課へ異動し、この事業に専念しています。

まだ世の中へ正式に提供できる段階ではありませんが、お客様へのヒアリングや検証を重ねながら、事業として成立させるための準備を進めています。

KYO Colorを通じて感じたのは、新規事業は一人ではつくれないということです。

原体験から始まり、多くの人の意見を聞き、お客様の声を受け止めながら少しずつ形にしていく。その積み重ねが、事業化につながっていくのだと感じています。

第4章 | 制度を作って終わりではない。運営側が2年間で学んだこと

関係者との対話を重ねながら、制度と挑戦者を支えてきたKYO Color運営のお二人
起案者を一人にせず、チームの一員として事業づくりに伴走する高橋氏(左)と坂口氏(右)

──KYO Colorを運営する中で、当初の想定と違ったことはありましたか。

高橋 氏:制度そのものを設計することよりも、社内の理解を得ることの方が大変だと感じました。

新規事業を進めるには、起案者だけではなく、その上司や所属部門、人事など、多くの関係者の協力が欠かせません。

特に、本業を持ちながら新規事業に取り組む以上、「業務時間をどう確保するのか」「部門としてどう支援するのか」といった点は、一つひとつ丁寧に調整していく必要がありました。大変な作業ではあったのですが、関係者と相談を重ねながら制度設計していったことで、結果的には多くの賛同者を得られたように思います。

制度は一度作れば終わりではなく、多くの人に理解してもらって初めて機能するものだと実感していますので、これは終わりなき挑戦ですね。

──運営する上で、大切にしてきたことは何でしょうか。

坂口 氏:起案者を一人にしないことです。

新規事業は、不確実性が高い取り組みのため、思うように進まないことや自分の考えが本当に妥当なのか迷う場面も多くあると感じています。

だからこそ、事務局もチームの一員として伴走し、顧客インタビューの調整や社内との橋渡しなど、起案者が事業づくりに集中できる環境を整えることを意識してきました。

制度を運営するというより、一緒に事業をつくる感覚に近いかもしれません。

──制度を続けてきた中で、どのような変化を感じていますか。

坂口 氏:最初から人材育成を目的にしていたわけではありませんが、結果として社員の変化は大きかったと感じています。

顧客へインタビューを重ねる中で、自分たちの思い込みに気付き、仮説を修正しながら事業を磨いていく。その経験は、たとえ事業化に至らなかったとしても、その後の業務に活きる学びになっています。

また、一度KYO Colorに挑戦した社員同士のつながりも生まれています。

部署を越えて近況を共有したり、相談し合ったりする姿を見ると、新規事業に挑戦した経験そのものが、社内の新しいコミュニティを育てていることを実感します。

──運営者として、今後さらに力を入れていきたいことを教えてください。

坂口 氏:まずは、最初の事業化事例をしっかりと成功させることです。

実際に事業が形になり、世の中へ価値を届けられれば、「自分も挑戦してみたい」と考える社員はさらに増えていくと思います。

制度は、その存在だけで挑戦を生み出すわけではありません。

挑戦した人が成果を出し、その姿を見た次の挑戦者が生まれる。その積み重ねによって、制度も文化も育っていくのだと考えています。

第5章 | 新規事業担当者へのメッセージ「社内外を巻き込みながら、自社らしい制度を育てる」

──これから社内新規事業制度を立ち上げる企業へ、アドバイスをいただけますか。

高橋 氏:まず大切なのは、社内を巻き込むことです。

新規事業は、新規事業部門だけで進められるものではありません。起案者の所属部門や上司、人事、経営陣など、多くの関係者の理解と協力があって初めて前に進みます。

特に所属する部門からすると、「まずは本業に集中してほしい」という考え方も自然なことです。そのため、新規事業に挑戦することが本人だけでなく、部門や会社にとってどのような価値につながるのかを丁寧に伝え、理解を得ながら進めていくことが重要だと感じています。

もう一つ大切なのは、社外から学び続けることです。

私たちも制度を立ち上げる前には、多くの企業様から話を伺い、それぞれの制度設計や運営方法、成功事例や失敗事例を徹底的に学びました。その経験があったからこそ、自社に合った制度を形にできたと思っています。

新規事業に絶対的な正解はありません。だからこそ、自社だけで考え続けるのではなく、社外の実践知を取り入れながら、自社らしい制度へ磨き上げていくことが大切ではないでしょうか。

──最後に、新規事業へ挑戦する方々へメッセージをお願いします。

高橋 氏:新規事業に取り組んでいると、思うように進まなかったり、周りから冷たい視線を向けられたり、周囲に相談できる人がおらず孤独を感じる場面もあるかもしれません。

私自身もそうした経験がありましたが、他社の新規事業担当者と話をすると、みな同じような悩みや葛藤を抱えながら挑戦していることが分かりました。

新規事業に挑戦する人たちは、互いにライバルという関係性ではなく、一緒に新しい価値を生み出そうと奮闘する仲間です。自分の中だけや、社内の中だけで完結させようとするのではなく、社外の方含めてオープンかつ積極的に情報交換をすることで、新規事業を前に進めるヒントが見つかることもあると思います。

また、制度づくりにも、事業づくりにも正解はありません。

我々も多くの方に支えていただきながらここまで来ることができました。だからこそ、人とのつながりを大切にしながら、新しい価値を生み出す挑戦の後押しも続けていきたいと思っています。

日本新薬のインタビュー記事のアイキャッチ画像

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次