ベッドの会社が、なぜフェムテックへ。パラマウントベッドが挑む「更年期×働く」の新規事業

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医療や介護の現場で培ってきた知見は、現場の外でも価値を生み出せるのではないか。
睡眠研究という強みを起点に、働く人の健康課題に向き合うことはできないのか。
そして女性の健康課題を「良い取り組み」で終わらせず、持続可能な事業として育てることはできないのか。

パラマウントベッド株式会社では現在、こうした問いから生まれたフェムテック領域の新規事業が複数進められています。 働く更年期世代の女性とその職場を支援する伴走型サービス「Menorista.(メノリスタ)」、そして女性の健康課題全般と働き方への理解を醸成し、企業の意識変革を促していく場「Silent SHIFT(サイレントシフト)」などです。 本記事では、これまであまり語られることのなかった 「なぜこのテーマに挑んだのか」「どのように事業が形になっていったのか」 というプロセスに焦点を当て、取り組みの背景について伺いました。


大槻さんの撮影写真一つ目

パラマウントベッド株式会社
経営企画本部 バリュークリエイトグループ 新規事業推進チーム マネージャー
大槻 朋子 氏

パラマウントベッドに入社後、介護領域セールスの担当を経て健康事業部門で、よりよい眠りの提供を目指す「Active Sleep」のブランドプロジェクトに参画。経営企画本部へ異動し「Sleep×Femtech」を立ち上げ、人生を通じて女性の健康を睡眠でサポートする取り組みを展開中。2023年から現職。

堀井 大の写真

新規事業Talks 編集長
堀井 大

大企業・スタートアップのマーケティング支援を行いながら、大企業の新規事業担当者に焦点を当てるインタビューメディア「新規事業Talks」を運営。


目次

第1章|パラマウントベッドの事業の広がりと、その背景にある考え方

医療・介護の現場で培ってきた知見は、現場の外でも活かせるのではないか

大槻さんの撮影写真二つ目
パラマウントベッド株式会社にて新規事業開発に挑戦する大槻 朋子 氏

――まず最初に、御社の事業全体について教えてください。

パラマウントベッドは1947年創業で、もともとは医療用ベッドを作るところから始まった会社です。
現在は国内では大きく「医療」「介護」「健康」の3つの領域で事業を展開しています。

医療や介護の分野では、全国の現場に社員が入り込んでいます。
病院や介護施設、在宅医療の現場で働く方々と日々向き合いながら、どんな課題があるのかを拾い上げてきました。

その課題に対して、どのような解決策があり得るのかを検討し、自分たちの技術やテクノロジーをどう活かせるのかを考える。

それが、私たちの事業の作り方の基本です。

――かなり現場起点の会社なんですね。

そうですね。
会社の理念にも「先進の技術と優しさで、快適なヘルスケア環境を創造します」とあります。

理念の中に優しさという言葉が入っている会社って、実はあまり多くないと思うんです。
医療や介護の現場は、単に技術だけでは解決できないことも多い。
だからこそ、人の視点とテクノロジーの両方で課題を解決していく文化が根付いているのだと思います。

第2章|フェムテック事業は、会社の号令ではなく“個人の問い”から始まった

自身が抱いた疑問がフェムテック事業のきっかけ

――御社の新規事業の取り組みについても教えてください。現在の新規事業体制は、いつ頃から整ってきたのでしょうか。

既存事業の中でも、新しい価値を生み出す取り組みはこれまでも続けてきました。
現場の課題に向き合う中でソリューションを変えていくことは、ある意味でずっとやってきたことなんです。

ただ、既存事業の延長ではなく、新しい市場に向けて事業を作っていくという意味での新規事業を組織的に進める体制が整ったのは比較的最近です。

2022年頃に「バリュークリエイトグループ」という組織ができ、社内外の新しい価値創造を担う取り組みが本格化しました。
CVCの設立なども含めて、オープンイノベーションの扉が開いていったタイミングでもあります。

――その中でフェムテック事業の取り組みも始まったのでしょうか。

実は、この取り組みは会社から与えられたテーマではありません。
かなり個人の問題意識から始まっています。

私はそれ以前に、より良い眠りの提供を目指す「Active Sleep」というブランドプロジェクトに関わっていました。
これは睡眠をベースにした健康事業です。

その中で、もう少しまだ手につけられていない課題に焦点を絞りたいと思うようになりました。
特に女性というテーマに対して、睡眠の観点から何かできないかと。

ちょうどその頃、日本でもフェムテックというマーケットが動き始めていたんです。
そこで「睡眠という私たちの強みを、この領域に活かせないだろうか」と考えたことが、この取り組みのスタートでした。

第3章|最初から一本の事業ではなかった。4つのプロジェクトが並行して育った

仮説を試す中で、枝分かれしていったプロジェクト

femtech事業のイメージ画像

――現在は大槻さんが推進されているフェムテック事業の全体像について教えてください。

現在は大きく分けて
わたしとねむり研究所」「ねむり共創リサーチ」「Menorista.(メノリスタ)」「Silent SHIFT(サイレントシフト)」の4つの取り組みがあります。

ただ、最初からこの形だったわけではありません。
むしろ、かなり試行錯誤の中から生まれてきたものなんです。

当初は、女性ホルモンの変化と睡眠を記録するアプリの構想がありました。
女性のライフサイクルと睡眠の関係を可視化することで、セルフケアに役立ててもらうというアイデアです。

ただ、検討を進めていく中で大きな壁にぶつかりました。
開発コストと、ユーザーが支払える価格の差がかなり大きかったんです。

アプリを開発しようとすると、どうしても一定の開発コストがかかります。
一方で、ユーザーが払える価格は月額数百円から千円程度の世界です。

このギャップを考えると、この形のままでは事業として成立しないと判断しました。

そこで一度立ち止まって、まず世の中に何かをアウトプットしてみようと考えました。
その過程で生まれたのが、手書きで記録できるヘルスケアダイアリー「90日~わたしをみつめるねむりDIARY~」です。

女性の体調や睡眠の変化を記録できるノートのようなもので、
いわば「アプリの仮説を紙で試す」ような取り組みでした。

このダイアリーは、「わたしとねむり研究所」の取り組みの中で展開していったものです。
ユーザーの反応を見ながら、少しずつ次の仮説が見えてきました。

一方で、更年期世代の女性を対象にしたセルフケアプログラムである「Menorista.」は、それ以前から進めていた取り組みです。

経済産業省の実証事業としてスタートしたもので、働く更年期世代のセルフケア支援をテーマに展開してきました。

こうした取り組みを段階的に進める中で、
「調査」「サービス」「発信」など、それぞれ異なる役割を持つ取り組みが必要だということが見えてきました。

その結果、プロジェクトが少しずつ枝分かれしていきました。

一般生活者向けに、眠りに関する正しい知識と最新情報を発信する「わたしとねむり研究所」、
さまざまな業界のパートナー企業とともに、睡眠・健康データを活用した価値創造を推進する「ねむり共創リサーチ」、
そして従業員の体調不良やリズムの乱れに対し、研修や睡眠計測、カウンセリングにより働きやすさや生産性向上を支援する「Menorista.」。

さらに、更年期を入口にして、女性の健康課題全般と働き方への理解を醸成し、企業の意識変革を促していく場として生まれたのが「Silent SHIFT」です。

振り返ってみると、一本の事業を最初から設計していたわけではありません。
いくつもの仮説を小さく試しながら、その結果をもとに次の取り組みが生まれていった。

結果として、現在の4つのプロジェクトが並行して動く形になっています。

第4章|CSRと事業、両輪で社会に広げていくという考え方

「良い取り組み」で終わらせないための選択

――この取り組みは社内でも共感されやすいテーマだと思います。ただ、一方で事業として伸ばしていくには難しいテーマのようにも思えます。社内から反対の声もあったのではないでしょうか。

そうですね。明確に反対されたわけではないのですが、
「良い取り組みだからCSRでやればいいじゃないか」というお言葉は何度かいただきました。

決して悪意があるわけではなくて、むしろ応援のニュアンスだったと思います。
社会的にも重要なテーマですし、「会社として取り組む価値はある」という理解はいただいていました。

――確かに、社会的意義のあるテーマほど、CSRとして取り組むという選択肢は自然に出てきますよね。

そうですね。CSRは企業として継続的に取り組むべき、とても重要な活動だと思っています。

そのうえで私は、このテーマをより広く社会に届けていくためには、
事業としても推進していく必要があるのではないかと感じました。

――事業として取り組むことで、どういった違いが生まれるのでしょうか。

一つは、社会の中で自走しながら広がっていく仕組みを作れることです。

事業として成立していれば、
顧客に価値を提供し、その対価をいただきながら、
継続的に改善し、広げていくことができます。

そうした循環があることで、このテーマ自体が一過性ではなく、
社会の中に根付いていく可能性が高まると考えました。

そしてもう一つは、関わり方の幅が広がることです。

CSRは企業として重要な取り組みとして、多くの社員が関わりながら推進していくものです。
一方で事業になると、新たな役割や機会が生まれていきます。

研究に携わる人、サービスを作る人、営業する人、広げていく人。
さまざまな形で関わる人が増えていくことで、このテーマに関わるプレイヤーも広がっていきます。

――なるほど。CSRと事業、それぞれ役割が違うということですね。

そうですね。

どちらか一方ではなく、
CSRと事業の両方の形で取り組むことで、
このテーマをより多面的に、そして持続的に広げていけるのではないかと考えています。

だからこそ私は、「良い取り組み」で終わらせず、
事業としても成立させていくことにこだわっています。

社会的に重要なテーマほど、
善意だけでなく、仕組みとして回り続ける形をつくることが重要だと思っています。

第5章|Menorista.は、更年期の不調を自己責任にしないための事業

個人が我慢するだけの時代は終わった

――Menorista.はどのようなサービスなのでしょうか。

私たちはベッドメーカーとして、長年睡眠と向き合ってきました。
その知見を働く女性従業員の健康課題に活かせないかと考えたのがMenorista.です。

Menorista.は、大きく分けて2つのサービスで構成されています。

1つ目は、女性社員、つまり当事者向けの支援サービスです。
2つ目は、男女を問わず周囲の理解を促すための研修サービスです。

これらを実施した上で、最終的には組織全体の課題を可視化し、改善につなげるフィードバックも行っています。

私たちが今フォーカスしているのは、特に働く更年期世代の方々です。
その方々が抱えている不調をサポートする伴走型のプログラムが、当事者向けサービスの中心になります。

ただ、私たちがこのサービスで一番大事にしているのは、
「自分の身体を自分で理解すること」なんです。

実は更年期って、周囲はおろか、本人でさえ自分の状態をきちんと把握できていないことが多いんです。

例えば「健康ですか?」と聞くと、多くの方が「健康です」と答えます。
ただ一方で、不調症状のチェックをしていただくと、睡眠の不調など何らかの症状が出てくる。

実際には、働く更年期世代の女性の中には、自分では「健康」だと思っていても、半数近く、場合によっては7割近くの方に不調症状があるという状況が見えてきます。

つまり、「自分は健康だと思っている状態」と「身体に起きている変化」にズレがあるんです。

このズレを理解しないまま我慢してしまう方も多いですし、
「年齢だから仕方ない」と思ってしまう方も多い。

だからこそMenorista.では、まず自分の身体の状態を客観的に理解することを大切にしています。

――具体的にはどのような形で支援しているのでしょうか。

当事者向けのプログラムでは、当社の睡眠計測センサーを使って睡眠データを測定し、そのデータをもとにオンラインでカウンセリングを行います。

睡眠だけでなく、生活習慣やストレス、ホルモンバランスなども含めて、今どんな状態なのかを一緒に整理していきます。

私たちは医療機関ではないので、診断や治療を行う立場ではありません。
あくまでセルフケアを支援するサービスです。

ただし、医療的な対応が必要なケースであれば、睡眠外来などの医療機関をご紹介することもあります。

このプログラムを通じて、セルフマネジメントを“身体知”として理解してもらうことを目指しています。

――周囲の理解を促すための研修サービスについても教えてください。

女性の健康課題は、本人だけの問題ではありません。
上司や同僚の理解があって初めて、働き続けやすい環境が生まれます。

そのためMenorista.では、周囲の理解を促すための研修も提供しています。

例えば、女性の健康課題全般をテーマにした研修や、ワーク型のアクティブラーニング研修です。

この研修では、女性の健康課題をテーマにしたアンコンシャス・バイアスについて学びます。

ワークを通じて実際の状況を考えることで、
「こういうことが職場で起きているのか」
「自分にも思い込みがあるかもしれない」
といった気づきを得られる内容になっています。

結果として、上司や同僚の方々も具体的なイメージを持てるようになり、職場での理解が進みやすくなります。

更年期の不調は、個人の問題として扱われがちです。
でも実際には、働き方や職場環境とも深く関係しています。

例えば、更年期に伴う睡眠の不調が生じると集中力が落ちたり、疲労が抜けにくくなったりします。
それによって仕事のパフォーマンスにも影響が出てしまう。

ただ、それを本人が一人で抱え込んでしまうケースが多いんです。
だからこそMenorista.では、更年期の不調を「自己責任」にしないという考え方を大切にしています。

当事者のセルフケアを支援すること。
そして周囲の理解を広げること。

その両方を通じて、無理なく働き続けられる環境を作ることが、このサービスの価値だと思っています。

また、こうした取り組みを通じて見えてきた傾向については、
組織全体の課題として捉え直し、企業側の意思決定につなげていく支援も行っています。

個人の健康課題を組織の課題として可視化することで、
働き方やマネジメントの見直しにつながる可能性があります。

第6章|当事者支援だけでは届かない。意思決定層への翻訳装置

意思決定層を巻き込むための仕組みづくり

SilentSHIFTのイメージ画像

――Silent SHIFTという取り組みも印象的でした。

Menorista.の取り組みを進める中で感じたことがあります。

当事者の課題をいくら語っても、企業の意思決定層には届きにくいことがあるんです。

例えば、更年期の不調を抱える当事者の方々が
「つらい」「働きづらい」と声を上げても、それが企業の意思決定にまでつながるケースは多くありません。

多くの場合、その声は個人の問題として扱われてしまうんです。

――確かに、企業の経営課題として認識されるまでには距離がありますよね。

そうなんです。
Menorista.では当事者の支援を行っていますが、それだけでは社会は変わらないと感じました。

当事者の声を、そのままの形で届けても、
企業の意思決定層にはなかなか届きません。

そこで
「意思決定層が安全にこのテーマに触れられる場を作る必要がある」
と考えました。

それがSilent SHIFTです。

――安全に触れられる場というのはどういう意味でしょうか。

更年期や女性の健康課題って、企業の中ではまだ扱いづらいテーマなんです。

特に経営層や男性管理職の方々にとっては、
「どう話していいのか分からない」
「触れていいのか分からない」

という心理的なハードルがあります。

だからこそ、まずは安心して学び、対話できる場を作る必要があると思いました。

Silent SHIFTは、企業の意思決定層が
これまで触れてこなかったテーマに向き合い、対話するための場として設計しています。

――つまり、Menorista.が当事者支援だとすると、Silent SHIFTは経営層へのアプローチという位置づけなんですね。

そうですね。

Menorista.が当事者のセルフマネジメントを支援する取り組みだとすると、
Silent SHIFTは意思決定層に向けた翻訳装置のようなものです。

当事者の声や現場の課題を、そのまま伝えるのではなく、
企業の意思決定に届く形に翻訳する。

そうすることで初めて、企業の中でこのテーマが議論されるようになります。

――社会課題を企業課題に変換する取り組みとも言えそうですね。

まさにそうですね。

更年期の不調は個人の問題として扱われがちですが、
実際には企業にとっても重要なテーマです。

例えば

  • 離職
  • パフォーマンス低下
  • 人材の活躍機会の損失

といった形で、組織にも影響が出てきます。

ただ、それが企業の意思決定のテーブルに上がるためには、
社会課題という抽象的な言葉のままでは届かないんです。

企業の意思決定層が理解できる言葉に翻訳することが必要になります。

Silent SHIFTは、そのための場でもあります。

企業の意思決定層がこのテーマに触れ、対話を通じて理解を深める。
そしてその理解が、企業の中での意思決定につながっていく――Silent SHIFTは、そのプロセスを実現することを目指しています。

Menorista.とSilent SHIFTは、それぞれ異なるアプローチですが、どちらも同じ目的に向かっています。

更年期の課題を、個人の問題で終わらせないこと。
そのために、当事者と意思決定層の両方にアプローチする取り組みを続けています。


新規事業開発担当者へのメッセージ

――最後に、新規事業担当者へのメッセージをお願いします。

私は、新規事業の仕事って
「ルールメイキングされていないものを探しにいくこと」
だと思っています。

既存事業は、長い時間をかけて磨かれてきたものです。
市場のルールも、成功の型も、ある程度できあがっています。

だからこそ、新規事業はその外側にあるものを探しにいく必要があります。

まだルールが決まっていない領域。
まだ誰も答えを持っていないテーマ。

そういう場所にこそ、新しい価値が生まれる可能性があると思っています。
もちろん簡単なことではありません。

でも、既存の枠組みの外側に踏み出していくこと自体が、新規事業の仕事なのではないかと私は思っています。


Menorista.について詳しく知りたい方へ

Menorista.(メノリスタ)は、働く更年期世代の女性と、その職場に寄り添う伴走型サービスです。

更年期というセンシティブで見えづらい課題に対して、個人の主観データと睡眠などの客観データを組み合わせながら、企業と個人の双方にとってより健やかな働く環境づくりを支援しています。

SilentSHIFTでは、このテーマを一企業だけの取り組みで終わらせず、企業横断での対話や実証を通じて、新しい働く環境のあり方を模索しています。

「自社でも取り組みたい」「まずは話を聞いてみたい」という方は、ぜひ詳細をご覧ください。

Menorista. サービスサイト
https://menorista.jp/

また、更年期世代女性2,000名の実態をまとめた調査レポートも公開中です。課題理解の入り口として、ぜひご活用ください。

調査レポートはこちら
https://www.paramount.co.jp/news/1612/

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