ハナマルキ株式会社「ブームが終わった後に、どう売るか」ハナマルキ・液体塩こうじが切り拓いた、組織変革のリアル
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企業の新規事業は、「良いプロダクトをつくること」と同じくらい、「どう売るか」が問われます。特に、一度ブームが去った市場においては、その難易度は一段と高まります。市場からの関心が薄れ、社内外からも「今さら?」という反応が返ってくる中で、どのように事業を伸ばしていくのか。そこには、表には出にくい意思決定や試行錯誤の積み重ねがあります。
今回お話を伺ったのは、ハナマルキ株式会社で液体塩こうじの成長を牽引してきた平田氏です。液体塩こうじは、塩こうじブームの中で誕生しながらも、同氏が入社したタイミングではすでにブームが落ち着き、市場の熱は冷めつつありました。社内では「液体塩こうじは売れない」と声が上がり、社内にも十分な推進体制が整っていない状況からのスタートだったといいます。
そうした逆風の中で、平田氏はプロダクトの可能性を信じ、PRの立て直しやレシピ開発、そして「塩こうじ会議」といった組織横断の取り組みを通じて、事業と組織の両面に働きかけていきました。その結果、ハナマルキの塩こうじ事業は2025年に20億円規模の事業へと成長するだけでなく、社内の意思決定や風土にも大きな変化をもたらしています。
本記事では、ブーム終焉後の市場にあえて挑んだ意思決定の背景から、社内の温度差をどう乗り越えたのか、そして事業成長の裏側でどのような組織変革が起きていたのかを紐解きます。新規事業に取り組む方にとって、「やり続けること」の重要性を再認識できる内容になれば幸いです。

平田 伸行(ひらた のぶゆき)
ハナマルキ株式会社 取締役 マーケティング部長
広島県出身。広島大学経済学部卒業。1990年、株式会社リクルートに新卒で入社。人材採用広報の制作ディレクターを経験後、新組織の立ち上げや自社の宣伝を担う。2010年、アパレル企業である株式会社クロスカンパニー(現:株式会社ストライプインターナショナル)に移り、宣伝広報部門の立ち上げを担った後、執行役員社長室長に就任。急成長期にあった同社の組織体制強化を任され、人事・システム・CS窓口など全方位的に体制の見直し・強化をおこなう。その後、2013年6月よりハナマルキ株式会社に参画。

堀井 大(ほりい ひろし)
新規事業Talks 編集長
大企業・スタートアップのマーケティング支援を行いながら、大企業の新規事業担当者に焦点を当てるインタビューメディア「新規事業Talks」を運営。
第1章|なぜハナマルキは液体塩こうじに挑戦したのか
ブーム終焉直後に飛び込んだ意思決定

堀井:
まずは、平田さんがハナマルキに関わることになった背景からお伺いさせてください。どのような経緯で入社されたのでしょうか。
平田:
ハナマルキがちょうど液体塩こうじを発売した直後に、液体塩こうじを紹介してもらいました。当時、私は、実は塩こうじについて詳しくなかったのですが、花岡会長(当時:社長)から液体塩こうじの特性を聞いて、この商品は可能性がある、売れると感じました。私は宣伝PRの役割でしたが、もしこの商品が売れなかったら、それは宣伝PRの責任になる、と思えたくらいです。
堀井:
入社されたタイミングでは、液体塩こうじはすでに市場に出ていたと思います。当時の状況や社内の空気感はどのようなものだったのでしょうか。
平田:
液体塩こうじ自体は、塩こうじブームの中で誕生していて、発売当初はしっかり売れていました。ただ、私が入社した2013年頃には、すでにブームが落ち着き始めていたんです。
社内では塩こうじはもう終わった商品という認識が広がっていて、お客様からも「ブームが終わったのに塩こうじですか?」という反応が返ってくるような状況でした。社内で前向きに売っていこうという空気は正直弱く、かなり厳しいスタートでした。
堀井:
そうした状況の中で、難しそうだと感じることはなかったのでしょうか。
平田:
確かにブームが終わった、ということはあったのですが、液体塩こうじはいろいろな食材、メニューに使えて汎用性が高い調味料。味噌や醤油と同様の日本古来の調味料でありながら、まだ世に出ていない新しい基礎調味料になり得ると感じました。
新規事業の難しさはこれまでの他社での経験から理解していましたが、それでもこの商品ならいけると思えたんです。私の中では、成長ストーリーもすぐに描けましたし、プロモーションの打ち手も頭の中に浮かんできました。
堀井:
プロダクトへの確信が、意思決定の大きな後押しになったということですね。
平田:
市場環境としては逆風でしたが、それ以上にこの商品を広めたいという気持ちのほうが強かった。だからこそ、ブームが終わったタイミングでも、十分に挑戦する価値がありました。
第2章|「売れない」をどう覆すか
PR不在と社内の温度差という最初の壁

堀井:
当時はかなり厳しい状況だったと思います。その中で、最初にどこに課題があると感じられたのでしょうか。
平田:
私が担当する宣伝PRです。まずはホームページのリニューアルから着手しました。私はホームページは「宣伝PRの基地」と捉えています。いろんな宣伝PR施策を打つと、その後ホームページを確認される可能性は高い。そのホームページがわかりやすく、必要な情報がリアルタイムに掲載されていないと、施策の効果が薄れてしまうのです。
堀井:
確かに、導線が整っていないとプロモーションの効果も出づらいですよね。
平田:
さらに言うと、そもそも世の中に液体塩こうじに関する情報が出ていなかった。液体塩こうじで検索しても、ほとんど情報が出てこない状態でした。よって、とにかくプレスリリースを多く出して、世の中に「液体塩こうじ」という言葉を1つでも多く出していく。なにかとネタをつくってはリリースを出していました。
堀井:
社内との温度差もあったと伺っています。その点はいかがでしたか。
平田:
社内では、すでに塩こうじはブームが終わった商品という認識が広がりつつありました。実際にお客様からもそう言われるので、どうしても優先順位が下がってしまう。味噌や即席味噌汁に注力したくなるのは自然な流れだと思いました。
ただ、その状態のままでは新しい事業は絶対に伸びません。だからこそ、まずは社内の認識を変える必要があると感じました。
堀井:
その中で、宣伝PRに関してどんな工夫をされたんですか。
平田:
液体塩こうじの汎用性を打ち出すべく、レシピ開発に力を入れました。液体塩こうじはいくらでもレシピをつくることができる万能調味料、料理に使える調味料、という訴求をしていく。それまで、塩こうじに関しては、世の中は発酵や健康といった文脈で語られることが多かったのですが、それだけではわかりにくいし、もったいない。新しい切り口で訴求をしていこうと考えました。
堀井:
なるほど、プロダクトの価値の伝え方自体を変えていったんですね。
平田:
ブームが終わったからこそ、改めて価値を再定義する必要がありました。派手な施策というよりは、地道に情報を出し続けることと、使い方を具体的に伝えること。その積み重ねから始めていきました。
第3章|「塩こうじ会議」が生んだ転換点
現場起点で組織を動かす仕組み

堀井:
どのようにして社内が変わっていったのでしょうか。
平田:
液体塩こうじに関しては、店頭の試食販売でPRをしていましたが、どの店舗で何本売れているのか、どういう売り方をしているのか。そういったデータがまとまっていなかったので、営業から情報を集めて、まずは自分で一覧にしました。すると、売れる店舗と売れない店舗で大きな差があることが見えてきたんです。
堀井:
データを可視化することで、課題が見えてきたということですね。
平田:
そこで、今度は実際に自分で店頭に立ってみようと。液体塩こうじを1日店頭で販売してどこまで売れるか、自分で試してみたかったんです。また、うまくいったこと、うまくいかなかったこと両方体験できるので、それを社内で共有しようと思いました。実際、販売したら、それまでの最高本数を大きく超えることができました。
この成功体験を社内に共有することで、空気が少しずつ変わっていきました。
堀井:
その経験が、組織全体の動きにもつながっていったのでしょうか。
平田:
そうですね。その流れで、全社員が店頭に立ったんです。
みんなで現場に立つことで、どうすれば売れるのか、自分たちで考えるようになり、実際にお客様と向き合う。その経験で、組織全体の意識が変わったように思います。これは間違いなく大きな転換点だったと思います。
部署横断ではじめた「塩こうじ会議」の存在も大きかったと思います。月1回3時間、「塩こうじ」のことだけを考える会です。液体塩こうじをどう売っていくか、どうPRするかがテーマです。
「塩こうじは新しい事業、正解はないから、必ず全員が意見を出そう」「席順をクジで決める」など、会のルールを設け、フラットに議論できる場をつくることを意識しました。
堀井:
かなり意図的に設計された場だったんですね。
平田:
最初は私が事務局でしたので、会を引っ張っていましたが、徐々にメンバーからも意見が出るようになっていきました。今では12年ほど続いていますが、議論が活発な会議になっています。
堀井:
レシピの開発も、このタイミングで進んでいったのでしょうか。
平田:
レシピは初期から重要な戦略として取り組んできました。液体塩こうじは汎用性が高いので、いくらでもメニューが広がる。その強みを形にするために、とにかくレシピを増やしていきました。
結果として、今では1,000レシピ近くまで積み上がっています。時間はかかりましたが、この蓄積が、商品の価値を具体的に伝える土台になっています。
堀井:
現場とコンテンツ、両方から積み上げていったんですね。
平田:
机上で考えるだけではなく、現場で試して、そこから得た学びを仕組みにしていく。その繰り返しが、組織全体を動かす力になっていったのだと思います。
第4章|売上だけではない、新規事業の価値
液体塩こうじが変えた組織と意思決定のあり方

堀井:
ここまでのお話を伺っていると、液体塩こうじは売上だけではなく、社内風土にも変化をもたらしているように感じました。実際に組織への影響はありましたか。
平田:
大きく何かが一気に変わったというよりは、少しずつ変わっていったという感覚です。
最初はやはり、なかなか売れない時期が続いていたので、「本当に続けて意味があるのか」ということだったと思います。
堀井:
やはり最初は厳しい目もあったんですね。
平田:
ありましたね。ただ、少しずつ売上が積み上がってきたり、店頭での手応えが出てきたりする中で、「あれ、もしかしたらいけるかもしれない」という空気に変わっていったんです。
特に、実際に店頭に立ったメンバーが「これは売れる」と実感を持てたことは大きかったと思います。頭で理解するだけではなく、自分の体験として持てるかどうかで、関わり方も変わってくるので。
堀井:
現場での体験が、社内の認識を変えていったということですね。
平田:
それまでは、どうしても既存事業が中心だったので、新しい取り組みに対して慎重な面もあったと思います。ただ、液体塩こうじを通じて「やり方次第で伸ばせる」という実感が少しずつ広がっていきました。
堀井:
意思決定の面でも変化はありましたか。
平田:
少しずつではありますが、短期的な結果だけで判断せず、時間をかけて育てていくという考え方は、以前よりも浸透してきたと感じています。
液体塩こうじも、最初から順調だったわけではなくて、時間をかけて積み上げてきた事業です。そのプロセスを見ているメンバーが増えたことで、短期的な結果だけで判断しないという考え方は、少しずつ根付いてきたのではないかと思います。
堀井:
まさに積み上げの中で変わっていったんですね。
平田:
何か特別なことをしたというよりは、現場で試して、うまくいったことを共有して、それを広げていく。その繰り返しでした。
そのプロセス自体が、組織にとっての一つの経験になっていると感じています。
第5章|20億円達成の裏側とその先の成長戦略
発酵調味料メーカーへの進化とグローバル展開

堀井:
ここまでの取り組みを経て、ハナマルキの塩こうじ事業は20億円規模の事業にまで成長されています。この成果についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
平田:
当初10億円を目標に掲げてクリア、次に20億円を掲げてクリア、となりました。まだまだ通過点だとは思いますが、順調に成長できています。
これまでお話ししてきたように、現場で試して、うまくいったことを積み上げていく。その繰り返しを続けてきた結果だと思っています。どれか一つの施策で大きく伸びたというよりは、小さな改善の積み重ねでした。
堀井:
今後の展開についてもお伺いさせてください。液体塩こうじというプロダクトを起点に、どのような広がりを見据えていらっしゃるのでしょうか。
平田:
液体塩こうじを知らない方はまだまだ多い。逆を言えば、その分まだまだポテンシャルがあるということです。国内外に引き続きPRしていきます。これまでは味噌を中心とした会社でしたが、今後は発酵調味料メーカーとしての存在感を高めていきたいと思っています。
堀井:
海外展開についてはいかがでしょうか。
平田:
はい、大きな可能性があります。液体塩こうじは唯一無二の商品。ハナマルキがどう開拓していくか、だけですね。楽しみです。
堀井:
国内外問わず、まだまだ伸びしろがあるということですね。
平田:
ここからさらにどう広げていくかが重要です。これまで積み上げてきたものをベースにしながら、新しい挑戦も続けていきたいと考えています。
全国の新規事業担当者へのメッセージ
堀井:
最後に、全国の新規事業担当者の方々に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
平田:
新規事業は、最初からうまくいくことの方が少ないと思います。むしろ、うまくいかないことの方が多いのが当たり前です。
液体塩こうじも、最初から順調だったわけではなく、なかなか売れない時期が続きました。それでも、現場で試して、うまくいったことを少しずつ積み上げていく。その繰り返しを続けてきた結果、今があります。
やはり大事なのは、しつこくやり続けることだと思います。途中で止めてしまえば、どんなに良いプロダクトでも広がることはありません。すぐに結果が出なくても、現場での手応えや小さな変化を信じて続けていくことが重要だと感じています。
堀井:
やり続けることの重要性ということですね。
平田:
あとは、現場に足を運ぶことも大切だと思います。机上で考えるだけではなく、実際にお客様と向き合うことで見えてくることがたくさんあります。
私自身も、店頭に立った経験が大きな転換点になりましたし、その体験があったからこそ、自信を持って進めることができました。
新規事業は一人でできるものではないので、周りを巻き込みながら進めていくことも重要です。そのためにも、自分自身がまず動いて、実際にやってみる。その姿勢が、少しずつ組織を動かしていくのだと思います。
すぐに結果が出なくても、焦らずに、目の前のことを一つずつ積み上げていく。その先に、事業としての形が見えてくるのではないかと思います。
やり続けた先にしか、事業の形は見えてこないのだと思います。
