関西電力株式会社

関西電力の挑戦DNAから生まれる新規事業 社内起業支援制度『SPARK』が拓く次の中核事業

関西電力様の新規事業担当者お二人のアイキャッチ画像
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黒部ダムに象徴される「世紀の大工事」や、日本初の水力発電・加圧水型原子力発電の導入。関西電力は、創業以来「挑戦」と「イノベーション」を企業のDNAとして受け継ぎ、時代ごとに新たな事業領域を切り拓いてきました。2000年代には人材・金融・介護などを始めとした幅広い分野にも挑戦し、試行錯誤を経て整理・撤退を繰り返しながらも、情報通信や不動産といった現在の中核事業を育ててきました。

そうした「挑戦」の系譜を継ぐのが、社内起業支援制度『SPARK』です。1998年から続く「かんでん起業チャレンジ」を起点に、2018年以降はアイデア創出から事業化・会社設立までを一貫して支援する仕組みとして運用され、近年はブランドを『SPARK』としてリニューアルしました。社員一人ひとりの挑戦を後押しすることで、次世代を担う中核事業と人材の創出を目指しています。

本稿では、関西電力のイノベーション推進本部で新規事業開発を牽引する大畑さん、中川さんに、新規事業の位置づけや注力領域、そしてSPARKの全貌について伺いました。

目次

挑戦とイノベーションのDNAが支える新規事業の位置づけ

まず、関西電力にとって、新規事業は経営戦略全体の中でどのように位置づけられているのか、教えていただけますか。

関西電力の新規事業担当者の大畑さんのお写真

大畑さん:
関西電力はこれまで常に挑戦を続けてきました。グループ全体のDNAとして「挑戦」が根付いており、経営理念の中にも、大切にする価値観として「挑戦 -Innovation-」という言葉が明確に掲げられています。これは単なるスローガンではなく、実際に事業として形になってきたものです。

例えば、日本初の商用水力発電や加圧水型原子力発電を導入したのは関西電力です。また、黒部ダム建設は「世紀の大工事」と呼ばれ、当時の会社規模から見れば非常に大規模な投資を行う大胆な挑戦でした。もし失敗すれば会社が揺らぐほどの規模でしたが、それを成し遂げたことが現在の事業基盤につながっています。

2000年代初頭には、グループ経営の観点から多様な新規事業に挑戦しました。人材サービス、金融サービス、介護サービスなど、幅広い領域にチャレンジしましたが、その多くは整理・撤退、あるいは他社への事業売却を経ることになりました。しかし、そうした挑戦の積み重ねが、現在の中核事業の礎となっています。実際、情報通信の株式会社オプテージや関電不動産開発株式会社といった事業は、当時の試行錯誤から生まれ、今では大きな収益を稼ぐ存在に育っています。

近年では水素やデータセンターといった領域にも取り組み、グループ全体でイノベーションを推進する中で新たな事業が立ち上がっています。

あくまでも、関西電力には「挑戦 -Innovation-」というDNAが存在し、それを継続的に実践してきたことが、今日に至るまでの新規事業挑戦につながっているということです。

新規事業に取り組む際には、既存の電力・エネルギー事業とのつながりを重視しているのでしょうか。それとも、まったく新しい領域にも積極的に挑戦しているのでしょうか。

大畑さん:
関西電力は両方に取り組んでいます。既存事業は短期的な収益を担いますが、それだけでは長期的な成長を十分に描くことはできません。そのため、既存領域の中長期的なテーマや既存事業は手を出しづらい、近しいけれど踏み込みにくい「ジレンマ領域」と呼ばれる分野、さらに全く新しい分野にも調査や事業創出を進めています。

ただし、中核事業に育てていくには、やはり関西電力のアセットや強みを活かすことが重要です。例えばデータセンターは電力を大量に使うため電力事業との親和性が高く、不動産の要素も含まれます。水素もエネルギーに近い領域です。関西電力は新しい分野に挑みつつも、既存事業とのシナジーを重視して事業を進めています。

現在、注力しているテーマや領域はどこでしょうか。

大畑さん:
まず、中長期的な視点で将来を見据えた調査については、あまり領域を限定せずに多方面を探索しています。ただし、実際に事業をつくる段階では、関西電力が保有する強みを活かせることや、競争優位性を発揮できることを重要視しています。

そのうえで、特に注力している領域がいくつかありますが、その一つが我々の祖業の延長でもある次世代エネルギー領域です。一次エネルギー、二次エネルギー、脱炭素などの切り口で、将来のエネルギー領域に大きな影響を与える可能性のあるテーマに取り組んでおり、これを担う専任の部隊も設置しています。さらに、今期からは海外探索の機能を強化し、グローバルな視点での調査活動も本格化しています。こうした取り組みは、「新たな事業機会の探索」と「既存事業のさらなる成長」の両面で極めて重要であると考えています。

加えて、AI領域も成長性の観点から注目しています。関西電力は電力基盤とデータセンターを持ち、その上に株式会社オプテージの情報通信事業や社内DXの知見が存在します。これらを横串でつなぐことで事業化の可能性が広がると考えています。AI事業はまだ構想段階にありますが、今後の重点テーマのひとつとして育てていく方針です。

新規事業を立ち上げる際、事業規模の目安はありますか。

大畑さん:
関西電力グループは現在4兆円規模の会社です。そのため、小規模な新規事業を立ち上げても全社的には埋もれてしまいます。もちろん、小規模な事業から入り、将来的に大きな領域に展開していくことは考えていますが、狙う先の市場規模が少なくとも1,000億円程度あり、その中でシェア10%を獲得すれば100億円規模に成長できるようなテーマを狙う必要があると考えています。つまり、事業の将来性と既存事業とのシナジーを両立させつつ、規模感としても十分にインパクトを持つ新規事業を目指しているということです。

「インキュベーター」としての体制 —— イノベーション推進本部と社内起業支援制度『SPARK』

社内の体制や組織づくりについて、現在はどのようになっているのでしょうか。

大畑さん:
我々イノベーション推進本部は、大きく以下の三つの機能を担っています。

  1. 風土醸成・人材育成:グループ全体で挑戦文化を根付かせ、イノベーションを担う社員を育成する機能
  2. 未来調査:中長期の視点で市場機会と脅威を探索し、いち早く備える機能
  3. 新領域での事業創出:既存事業部門が手薄になりがちな領域をカバーし、新規事業を立ち上げる機能

イノベーション推進本部は、事業を長期的に育てる部門というよりも、ゼロから一を生み出す“インキュベーター”としての役割を重視しています。実際、水素事業やデータセンターのように本格的な事業運営が必要な段階に達した事業については、新たに「水素事業戦略室」や「データセンター事業推進室」といった専任組織を設けたり、蓄電池事業は様々な部門での取り組みを集約した上で、既存事業部門に切り出して推進を委ねています。

一方で、既存事業領域における“にじみ出し”的な新規事業は、既存事業部門が担っています。つまり、新しい事業の芽は社内のいたるところから自然に出てきており、それを全社としてどう束ね、適切な本部に引き渡すかが重要な流れになっています。

私たちイノベーション推進本部は、あくまでも「旗振り役」としての立場です。自らも新規事業に取り組みつつ、全社に向けて挑戦を呼びかけ、芽が育ちそうであれば本格的に推進できる部門に橋渡しをします。主役として事業を長期的に運営するのではなく、インキュベーターとしてゼロイチを担い、その後の成長を全社に広げていくことが、私たちの役割です。

現在、イノベーション推進本部ではさまざまな取り組みがあるかと思いますが、その中で特に力を入れている施策はありますか。

関西電力の新規事業担当者の中川さんのお写真

中川さん:
イノベーション推進本部では、社内の挑戦文化を育てるために複数の取り組みを進めています。たとえば、CVCやオープンイノベーションによる外部との連携に加え、関西の大企業の新規事業担当者が集う場を毎月開催しています。さらに、外部の起業家や事業開発経験者を講師にお招きする社内セミナーも継続的に実施し、知識と視点を広げる機会をつくっています。

その中でも特に力を入れているのが、社内起業支援制度の『SPARK』です。『SPARK』は3 stepのプログラムで、社員が段階的かつ一貫した流れで事業創出に挑戦できるよう設計されています。もともと1998年から25年以上にわたり運営してきた「かんでん起業チャレンジ」を核に、今年4月に三つのステップ全体を『SPARK』というブランドに統合しました。各フェーズは「SPARKアイデアフェス」「SPARKアクセラレーター」「SPARK起業チャレンジ」と名称を統一し、社内外にわかりやすく発信しています。

『SPARK』公式サイト:https://kepco-oi.jp/sbc

『SPARK』は三つのステップとおっしゃいましたが、それぞれ具体的にはどのような内容なのですか。

中川さん:
まず第一段階の「SPARKアイデアフェス」では、社員から広くアイデアを募ります。今年度は650件を超えるアイデアが寄せられており、新規事業に挑戦する最初のハードルを下げ、広い裾野を作る役割を担っています。

次に第二段階の「SPARKアクセラレーター」です。起業チャレンジを目指す社員を中心に、事業開発を学ぶプログラムを実施します。アイデアのブラッシュアップ、事業コンセプト設計、ビジネスプラン作成、プレゼンの方法までを外部講師とともに実践的に学びます。アイデアフェスに参加していなくてもアクセラレーターから参加可能で、「新規事業開発を学びたい」という社員も広く受け入れています。

そして第三段階の「SPARK起業チャレンジ」は、新会社として事業を立ち上げていくことを目的に実施しています。書類選考 → 一次審査(プレゼン) → 約1年の事業実証 → 最終審査 → 会社設立という流れを辿ります。書類段階で応募案件から10件ほどに絞り、約3か月間は社外メンターの伴走も得ながら内容をブラッシュアップします。一次審査では、顧客課題や市場の妥当性、本気度などを社内外の審査員が評価します。合格チームは1年間の事業実証に進み、昨年度からは社外の環境に身を置きながら検証を行う形に変更しました。

社外に身を置くことでスピード感を高め、定例メンタリングやSlackでの個別フォロー、社外メンターからの助言を受けながら検証を進めます。最終審査を経て承認されれば、会社設立となり、最大5年間運営できる仕組みです。3年目には事業継続の可否を判断するステージゲートを設けています。

ここまでで『SPARK』の仕組みを詳しくご説明いただきました。では、関西電力ならではの強みや文化が反映された「SPARKらしさ」とは、どのような点にあるのでしょうか。

大畑さんと中川さんの二人が写っているお写真

中川さん:
SPARKの大きな特徴のひとつは、起案者自らが出資できることです。自らリスクを取ることで経営者としての当事者意識が高まり、成功すればリターンも得られる仕組みになっています。単なる制度参加者ではなく、事業の担い手としての覚悟を醸成できる点は、関西電力ならではの特徴だと思います。

さらに、一度の挑戦で終わらせない仕組みとして、社内でのコミュニティサイトを運営しています。部門に戻った後も孤立せず、横のつながりを保ちながら情報共有や再挑戦につなげられる場です。既に1,000名ほどがこのコミュティに参加しており、挑戦者同士が横で見える化されることで、「また挑戦してみよう」と思える土壌を整えています。こうした「広く募る → 育てる → 事業化に挑む」という循環を社内に制度として根付かせている点も、『SPARK』の大きな強みです。

直近の参加状況を見ても、「SPARKアイデアフェス」に約250名、「SPARKアクセラレーター」に約100名が参加し、「SPARK起業チャレンジ」には40件程度の応募があります。「SPARK起業チャレンジ」ではPowerPointで10〜20枚のエントリーシートを作成し、課題・顧客・業務・ビジネスモデルまで整理して提出する必要があります。そのため件数としては少なく映っても、覚悟を持った質の高い提案が集まっているのが実状です。

このように『SPARK』は、単なる社内制度ではありません。挑戦文化を育みながら、人材育成と事業創出を同時に実現する、関西電力の伝統的な取り組みとして位置づけられています。

​​成果と学び、そして次の挑戦へ —— 『SPARK』から中核事業を生み出す

これまでに『SPARK』からどのような成果が生まれていますか。

中川さん:
これまでに累計800件超の応募があり、その中から11件が事業化、現在も4件が継続しています。直近では2019年に事業化された旅行関連の「TRAPOL」を、5年間の運営を経て株式会社羅針盤に事業譲渡しました。黒字化も達成しており、成長が見込まれる事業でしたが、さらなる成長に向けて検討を重ねた結果、旅の目的地を創出して日本の観光をリードすることを目指す羅針盤社へ引き継ぎ、新たな事業オーナーのもとでさらに成長を目指しています。

制度を運営する中で得た学びや、他社へのアドバイスはありますか。

大畑さん:
ひとつは、規模を意識することです。スモールビジネスで終わってしまえば、中核事業には育ちませんし、なかなか社内の決裁も下りにくいと思います。自社の強みやアセットを活用し、競争優位を持てる領域で事業をつくることは一つのポイントだと思います。

もうひとつは、運営側の覚悟です。事務局や経営層が領域を示し、伴走し、支援を惜しまないことが欠かせません。起案者にただ任せるだけでは事業は継続的に生んでいくことは難しいと思います。

さらに、失敗から学ぶ姿勢も重要です。失敗があるからこそ、制度や挑戦者が成長します。我々は社外の場などを通じて、そうした学びを共有しています。

最後に、今後のビジョンを教えてください。

中川さん:
社内起業支援制度を『SPARK』にリニューアルしたところですが、社内では存在を知っていても挑戦までは至っていない層がまだ多いです。現在の参加率はグループ全体では1%弱ですが、これを2〜3%に引き上げたいと考えています。

また、これまでいくつかの事業を生み出してきましたが、100億円・1000億円規模の中核事業はまだ誕生していません。関西電力は、『SPARK』を通じてそうした事業や人材を生み出し、次の成長の柱をつくっていきたいと考えています。

関西電力様の新規事業担当者お二人のアイキャッチ画像

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